シンプルゆえにごまかしが効かない。突き詰めると終わりがない
Craftman interview 08
C.KOUBARA
入社4年目の神原は、ものづくり以外の道を考えたことがないという。「私はアーティストにはなれない」と語る彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
誰かの役に立つものを作りたい
子どもの頃から絵を描いたり、手を動かすことが好きでした。それ以外の道ってあまり考えたことがなくて。そのまま大きくなっちゃったっていう感じですよね。大学も美術系のところに進学しました。
卒業後も道を決められずに、大学院に行くか就職するか、作品を作りながら考える時期が続きました。そんな中、誰にも求められていないものを作り続けるのは難しい、誰かの役に立つものを作りたい、その方が自分が嬉しい、っていうのに気づいたんです。そこから花屋さんに就職。式場のフラワーデザイナーを経て、鎌倉彫金工房へ来ました。
仕事に就く時、彫金かお花かで悩んで選んだのがお花。実際、花屋さんの仕事は楽しくて大好きでした。転職する気もなかったですし、彫金って未経験を募集しているところがほとんどないんです。今後一生、彫金の仕事をすることはないなと諦めていました。そんな中でたまたま求人を見つけて驚きました。これは彫金を仕事にする最後のチャンスかもしれない。運命だって思って応募したんです。
入社4年目の今は、お客様の結婚指輪や婚約指輪、ファッションリングの手作りをサポートしたり、お預かりした指輪の加工をしたりしています。あとはフラワーデザイナーの経験を生かして、撮影にお使いいただけるリングトレーの制作も担当しています。
シンプルゆえにごまかしが効かない
指輪のデザインや工程など、やっていることはシンプルというのが工房の第一印象。お花の仕事は自分の裁量やさじ加減で決められることが多かったのですが、接客以外の指輪作りの工程は、色々な作り方があるわけじゃなくシンプル。デザインや加工の基準も細かく決められていて、繊細だと感じました。
ただ、シンプルゆえにごまかしが効かないというか。これまでわりと器用だと自負していたんですが、難しい。突き詰めていくと本当に終わりがないんです。お客様と一緒に作りますから、うまく伝えてサポートしなきゃいけない。たっぷり時間をかけていていいのならできることかもしれないですが、お席の都合上、当然スピードも重視されます。
ある程度できるようになるにつれて、クオリティの少しの差にすぐに気づけるようになる。気づけるようになると、気になる。その繰り返しですね。私が上手じゃないとお客様に上手に作ってもらえない。
自分をさらけ出すと楽しい
空間の心地よさも大切にしています。最近気づいたのが、ありのままの自分をさらけ出すと楽しいということ。自分の意見を言ってみたり、会話に混ざったり。元々、一歩踏み込んでいくことはあまり得意ではなかったんですが、私が作っていた壁をなくしました。楽しそうに接客しているスタッフを見て「なんか良いな、楽しそうだな、なんでだろう」と研究して気づき、真似してみることにしたんです。
このスタッフさん本当にこう思ってるんだな、受け入れてくれそうだなというのが伝わった方が、お客様も気軽に話しかけやすいですよね。没頭したいから話しかけないでという方もいらっしゃいますが、そういう方もそっとしておいてほしいという雰囲気を出してもらいやすいのかなと思って。
正直、お客様がどうお感じになっているかは分かりません(笑)でも、私は楽しい。人の気持ちは連鎖すると言いますから、心地よい雰囲気作りに少しでも役に立っていると信じているんです。
直接顔が見られるのが一番の醍醐味
大学卒業後に見つけた、自分を表現するより誰かの役に立ちたいという気持ちは今も一貫しています。一番の醍醐味は、直接お客様の顔が見られること。自分がお手伝いしたことで、嬉しそうにしていたり楽しそうにしていたりする人を見ることができると、良かったって。楽しいって思います。
今後の目標は「いると助かるよね」と思われる人になること。加工の技術を今以上に磨いてできることを増やしたり、さりげない優しさを持てたり。お客様に対しても、スタッフに対しても、余裕を持ってどんな時でもどんと構えて、頼りがいがある存在になれたらいいなって思います。
神原のおすすめリングは……
ミルグレイン
今好きなのがミルグレインです。つぶつぶのデザインが可愛いですし、ちょっとアンティークっぽい感じもいいですよね。主に上下に2本入れるデザインと真ん中に1本入れるデザインがありますが、強いて言うならよりクラシカルな印象の上下のデザインが好きです。